かの有名なホラー映画『呪怨1 ビデオ版』を今更ながら視聴しました。
呪怨といえば後に制作された劇場版も大ヒットし、ハリウッド映画化・Jホラー界の2大アイドル貞子との共演・大量の派生作品を生むなど言わずとしれたレジェンド作品ですが、私は今の今まで視聴を避けて生きてきました。
その理由は2つあって、1つは単純に私がJホラーを観る機会がなかったことから免疫がなく、怖すぎてトラウマになったら嫌だなぁということ。実際『リング』すら今年になって初めて観たくらいです。
もう1つの理由は『呪怨2ビデオ版』版の冒頭はほぼ『1』の内容で構成されているため『2』を観れば『1』は観る必要がないという噂を耳にしていたからです。
そこで私は「じゃあ2だけ観ればコスパいいのでは」というふざけた理由で以前『呪怨2』だけをレンタルして観ていたのです(2は評判に違わずなかなか怖くて面白かったです)
それからというもの「『ビデオ版1』は本当に怖いのだろうか」「2に丸々1が入ってるって本当なんだろうか」と気になりながらも、そのためだけに『1』を借りる踏ん切りがつかずもやもやした日々を過ごしていました。
しかし、この度アマゾンプライムビデオで『呪怨1 ビデオ版』が観れることを発見したので、これ幸いと鑑賞するに至ったのでした。
ようやくこの疑問が解消されたので、まずは『呪怨1』は『2』を観れば観る必要がないのかどうかを簡潔に述べさせてください。
『呪怨ビデオ版』は本当に『2』さえ観れば、『1』を観る必要はありません。
『呪怨(ビデオオリジナル版)』(2000年)
- 監督・脚本 清水崇
- 出演 柳ユーレイ、藤貴子、でんでん、諏訪太朗、栗山千明ほか
『呪怨ビデオ版1』のあらすじ
じゅおん【呪怨】
つよい恨怨みを抱いて死んだモノの呪い。それは、死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、「業」となる。その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。(『呪怨』冒頭より)
要するに『呪怨』の主な舞台となる呪われた家には、強い怨念が残っており、それに関わった人はどんな浅い関係の人でもみんな犠牲となるというのが呪怨のお話です。
『呪怨』は複数人を主人公としたオムニバス形式になっています。それに加えて描かれる各章の順番が実は時系列順ではない作りになっていて少し話の筋を把握しづらいと思います。
そこで、補足として各章あらすじの見出しの()内に実際の時系列順も示しておくことにします。
※以下、内容に本編のネタバレを含みます
俊雄(1)
臨月の妻と2人で暮らす小学校教員の小林。家庭訪問中の小林の頭を悩ませているのが、学校に来ておらず、連絡も取れない生徒「佐伯俊雄」の存在だ。
小林は以前俊雄とその母に会ったときのことを思い出す。どことなく不気味な印象のその母親は、どうやら大学時代の知人川又伽椰子のようだ。
小林が佐伯家の家庭訪問に向かうと、この家は何かがおかしい。両親の姿は見えず、家の裏には何か生き物の死骸のようなものがある。
小林は全身あざだらけで衰弱した俊雄が1人で居るのを見つける。家の中はすっかり荒れ果てていて佐伯家が問題を抱えているのは明白だ。
小林が俊雄に尋ねると「お母さんはお父さんと一緒に出かけた」という。するとどこからか猫の鳴き声のようなものが聞こえてくる、小林は家の外を眺めるが、その後ろで雄雄が猫の声を出していた。
ちなみに冒頭にちらっと映る小林所有の家庭プロフィールから、俊雄くんのパパである佐伯剛雄の職業がイラストレーターであることがわかります。
由紀(3)
かつて佐伯家だった村上家で、知り合いの少女村上柑菜の勉強を見てやっている由紀。2人が勉強をしたり他愛もない話をして過ごしていると、由紀は妙な音が聞こえることに気づく。
うさぎの飼育当番を思い出した柑菜は、最近彼女ができたという兄つよしをからかいながら家を出ていく。1人になった由紀の耳に、妙な喉を鳴らすような声が聞こえる。ヘッドホンで音楽を聞いても不可解な音飛びを起こり、それを外すと再び妙な音が聞こえだす。
家に居るはずのつよしを呼んでも返答がないばかりか、家の様子は一変し、荒れてしまっている。そして由紀は不気味な声が天井裏から聞こえてくることに気づく。天井裏で由紀がライターを灯すと白塗りの女性が目の前に現れた。
瑞穂(4)
放課後の学校。女子高生の瑞穂は、彼氏の強志の姿を探している最中に落ちていた携帯電話を拾う。
停めてあった強志の自転車の横で剛を待っていた瑞穂は、教員に見つかってしまい職員室に連れて行かれる。教員は強志を呼ぶ放送を流すと、瑞穂を置いて校内の見周りに向かった。
瑞穂が携帯で強志の家に電話をかけると、どうやらまだ帰っていないようだ。突然職員室の明かりは消え、電話も不通になってしまう。
瑞穂はかがみこんだ職員室の机の下から、裸足で駆け回る子どもの姿を目撃する。突然鳴り響く携帯電話。瑞穂が恐る恐る机の下から出てくると携帯の発信号は「4444444」を示している。意を決して電話に出た瑞穂。後ろから聞こえる猫の鳴き声に振り返った瑞穂が目にしたのは、白塗りでブリーフ姿になった俊雄の姿だった。
柑菜(瑞穂と同時期)
死体安置所に2人の刑事が入ってくる。検死を担当した医師によると、遺体はありえない力で捻じ曲げられていて、分泌物や組織片にはウサギのものが混ざっているという。
そして現場でもう1つ見つかったのが、別人の「アゴ」。アゴを失くした持ち主はどこへ行ったのだろうか…。
村上家に母典子が帰ってくる。瑞穂からの強志宛ての電話を受け取ったは、強志の姿を探すが見当たらない、柑菜にも尋ねるが彼女もいないようだ。するとそこへアゴを失った女子生徒が血を流しながら帰ってくる。
伽椰子(2)
※ここから先の映像はほぼそのまま『呪怨2(ビデオオリジナル版)』に収録されています。
佐伯家で両親の帰りを待つ小林。俊雄は眠ってしまったようだ。相変わらず猫の声が聞こえてきたり、浴室で何かの血に塗れた手の幻覚が見えたりと、この家は何かがおかしい。
気づくと俊雄の姿がリビングから消えている。小林は2階の部屋で誰かと会話する俊雄の声を聞く。部屋に入ると俊雄の他に人の姿はなく、俊雄は1人で絵を描いていた。
小林を呼ぶ女の声がする。小林は自然と開いた扉の向こうの部屋に導かれるように入っていく。机には小林への異常な愛を綴った日記帳が残されていた。日記を手放した小林は天井裏から虫の羽音がするのに気づく。小林がライターで押入れを照らすと、そこに伽椰子と思われる遺体があった。
危機感を覚えた小林は上の空の俊雄を連れて家を出ようとする。携帯にかかってきた電話に出る小林。電話の相手は佐伯剛雄だった。剛雄の会話は「伽椰子には会いましたか?これまで俊雄の面倒を小林の代わりに見てやった。これからはよろしくお願いします」など支離滅裂だ。そして続けて「そういえば赤ちゃんが生まれました。女の子でしたよ」と告げる剛雄の手には赤い物体が握られていた。
事態を把握し、絶望する小林。そこに玄関の小林を目指して血塗れの伽椰子が這いながら階段を降りてくる。
一方電話を終えた剛雄は何かが入った袋をガードレールや路上に叩きつけながら歩いていた。近くのゴミ捨て場に居る何かに気づいた剛雄は腰を抜かす。するとゴミ袋から何者かが手を伸ばしてきた。
響子(5)
※この章は完全に『呪怨2』の前半の内容です。
響子は兄の営む不動産屋にやってきた。兄の悩みは、扱っているある物件に「住人がみんな亡くなったり行方不明になったりした」という噂が立ってしまい、とてもいい家なのに借り手が見つからないことだという。
2人はそのいわくつきの家を訪ねる。門には村上という表札がかかっている。兄の話では、村上家は父を残して母と娘の両方が亡くなっているという(あれ、お兄ちゃんは?)が、響子はこの家でもっと多くの人が犠牲になっていることを感じ取る。
響子が2階に上がると、白ワンピースを着た伽椰子が前屈をしながらこちらを睨んでいた。
響子はやはり何かに導かれるように伽椰子の部屋に入っていく。
しかしこの家は響子の力でなんとかできるような場所ではなかった。響子は兄に清酒を取ってきてもらうと口に含み、たまらず吐き出す。響子は兄に「この物件を借りたい人が現れたら、この清酒を飲んでもらい、もしもまずく感じるようだったら絶対にこの家を貸さないようにと」告げる。清酒は霊的な力に反応しやすいからだという(?)。響子は逃げるように家を後にする。
後日、あの物件が売れたという連絡を受けた響子。清酒チェックも問題なかったとのこと。ところで兄の息子ノブユキの様子が最近おかしいという。何かあの家の影響を受けてしまったのだろうか。
響子はあの家の様子を見に来た。響子が窓に目をやると新たな住人であろう妻らしき女性がなんとなく不気味な表情をして立っていた。
『呪怨(ビデオオリジナル版)の感想
ところどころ何が怖いのかわからない違和感のある演出もありますが、たしかに怖い作品でした。何より伽椰子という強烈な印象を残すキャラクターを生み出しただけでも大きな価値のある作品だと思います。
伽椰子って黒髪で白い服を着てっていう、日本の幽霊としては特に斬新な造形はないのですが、世界への広がりを見せたJホラーブームを牽引した2大アイドルの1人なのは間違いないでしょう。
しかし2大アイドルの片割れたる貞子の登場する『リング(劇場版)』と比較したとき、『呪怨』の映像作品としての完成度は大きく劣っていると言わざるをえません。ビデオ作品なので予算の限界などはもちろんあると思いますが、脚本、演出の面でも『リング』の方がはるかに面白いです。先述の通り私は『リング』も今年初めて観たのですが、やはりあれだけのブームになったのもうなずけるおもしろさ・完成度の高さを感じました。
『呪怨』は時系列のシャッフルで物語の背景がなかなか明らかにならない構造をとっているものの、「殺された人が怨みを持って化けて出る」というごく当たり前のお話に過ぎず、頑張って時系列を把握したり、考察したりする楽しみもほとんどありません。この仕掛が、うまく機能しているとは言い難いです。
恐怖演出の面では、スクラッチボイスというのでしょうか、いまや伽椰子の声としか表現できない、あの喉の奥を「ぁぁぁぁぁぁぁ」と鳴らす声や、霊がコソコソせずがっつり姿を表してくるといった点に呪怨ならではの個性が光ります。
その一方で、伽椰子から、家に関わった人全員を襲う怪異になるほどのバックボーンを感じられない、伽椰子があまりにがっつり映ると白塗りの普通の人に見えてしまう、白塗り&ブリーフの俊雄は初めからギャグに見えてしまう、伽椰子のストーカー日記は人怖系演出として恐ろしいのだが怨霊系ホラーとしての軸がブレる、一番やべー奴剛雄の狂気は本当に恐ろしいが、怪異に対面した途端に腑抜けになるのが腑に落ちないなど釈然としない点も多く見られます。
そして何より大きな問題が、冒頭でも述べたように終盤の展開ほとんどが次回作にそのまま使われるという編集が作品としてのバランスを乱していることです。
『1』を観るまでは「伽椰子が襲ってくるクライマックスだけをダイジェストとしてせっかくだから『2』にも収録」した程度のものだと予想していたのですが、実際には終盤の2エピソード、時間にして40分近くがそのまま2と同じなんですよね。
ラストの「響子」のエピソードは「伽椰子」のクライマックス感からは不自然なくらい拍子抜けしてしまうもので、いかにも「続編につづく」といった物語の導入部です。これが数分のものならこの先を恐怖を不気味に暗示するといった感じで理解できるのですが、意外と長い。しかもそのまま同じテンポで2でも見せられる。
1ではなぜか少女がゾンビ化して、伽椰子が登場しない「柑菜」のエピソードのよう回が箸休め的に挟まれていることもあり、ビデオ版呪怨は1と2を足して2で割った再編集版が会ってもいいんじゃないかと。続いて制作された劇場版がそのリメイク的な役割を果たすのかと思いきや、こちらは正当な続編のようで困惑してしまいます。
ところでJホラーに特有の、後ろにボヤーっと映っている幽霊という心霊表現方法は、脚本家・演出家の小中千昭氏の名をとって「小中理論」と呼ばれるそうです。
Jホラーの先駆けとも言われる中田秀夫監督の『女優霊』では、はっきり霊を見せすぎて恐怖が薄れてしまったという反省があり、続く『リング』ではクライマックスの目のカットまで貞子の顔を見せないことになったようです。
『呪怨』の伽椰子はそれに真っ向から対立するように、がっつり映りまくる怨霊として登場し、結果として続編が何度も製作されるような貞子と人気を二分するキャラクターになったのはとても興味深いです。
最後に、『呪怨』シリーズで伽椰子と並んで、強い個性と恐怖を担っているのがその「呪怨」というタイトルだと思います。字面で見ても口に出しても本当に怖い。冒頭で辞書のように無機質に表示される「呪怨」の定義だけでもう不気味な感覚になります。
実は当初東映側が提示したタイトルは『呪怨霊』というもので、清水監督の強い意向により『呪怨』に決まったというエピソードがありますが、「呪怨霊」ではここまでの人気タイトルにならなかったんじゃないかな…とさえ思います。
あ、そういえば呪怨にわかの私にとっては俊雄くんといえば、伽椰子の隣にいる白塗りブリーフの子という印象だったので、生前の痛ましくも愛らしい姿を見れたのは意外な収穫でした。