この度コスミック出版から出ている「ゾンビの世界リビングデッド」なる商品を購入しました。これはロメロ以前のクラシックゾンビ作品を大量に収録したものです。
これらの作品は流石に古いのと、現代の我々が楽しんでいるゾンビ像とは異なるゾンビの映画なので、楽しめないかもしれないという不安もありました。
しかし、その中にまさに現代ゾンビ映画の父として知られる、故ジョージ・A・ロメロ監督による1本目のゾンビ映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』も収録されていますので、少なくとも1本は面白さが保証されているといえましょう。
今回はその『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を観ていきます。古い作品ながらロメロゾンビ映画の魅力や痛烈なメッセージ性をすでに備えた名作ゾンビ映画を観てみましょう!
ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド──基本情報
ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド:1968年 96分 モノクロ
監督
- ジョージ・A・ロメロ
脚本
- ジョン・A・ルッソ
- ジョージ・A・ロメロ
出演
- デュアン・ジョーンズ
- ジュディス・オディア ほか
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のあらすじ
遠く離れた墓地に、父の墓参りにやってきたジョニーとバーバラの兄妹は、突然ふらふらとした足取りの男性に襲われる。バーバラは兄を置き去りにし、人気のない家屋に逃げこんでしまう。
聡明な黒人青年ベンも逃げ込んできたその家屋には、すでに無残な姿になった犠牲者が残されていた。
安全に思われた家にも次第に数を増やしたゾンビたちが襲いかかる。ベンはなんとかこれを退け、バリケードを設けようとするが、バーバラは兄を失ったショックで茫然自失している。
ラジオの報道によると、人間そっくりの集団に被害者が食い散らかされる事件がアメリカ東部の各地で不規則的に大量発生しているという。
そこに、バーバラとベンが上階で襲われていることを知りながらも、地下室に隠れていたクーパーとトムら5人の生存者が合流する。
クーパーはより安全な地下室に隠れているべきだと主張するが、ベンはラジオもあり、状況を把握しやすい地上階でゾンビたちに対抗すべきだと主張し、危機的状況の中、両者は激しく対立する…。
第1作にしてすでに完成された「ゾンビ」!
本作はロメロ監督の初期ゾンビ3部作の1本目に位置づけられ、以後のゾンビジャンルのお約束のほとんどを決定づけてしまった金字塔的作品です。
人肉を求めゆっくりと歩き、1体ではそれほどでもないが群れをなすことで驚異となるゾンビの静かな恐ろしさや、犠牲となった仲間がゾンビとして蘇ることによる悲劇、そしてなにより極限状態に追い込まれた人間が最も怖いといったゾンビ映画の王道はすでに本作に現れています。
民家を探索して銃火器を探したり、窓を木材で塞いで立てこもるのなんて2019年の「バイオRE2」や「デイズゴーン」なんかの最新ゲームにすら未だにワクワクする要素として登場しますよ…
本作はゾンビ史において大きな価値がある作品だからといって、現代に鑑賞してもつまらない作品というわけではありません。
ゾンビが初登場する序盤から、テンポよく民家の立てこもり、探索、ゾンビの対策へとつながり、中盤以降は生存者同士のサスペンスフルな展開が続き、間延びするタイミングがありません。
古い作品だからと軽い気持ちで観始めると、謎だらけの事態の行く末が気になってしまい、最後まで一気に観てしまうでしょう。
アクションシーンの派手さや、特殊メイクなどのゴア表現は低予算ということもあり控えめです。それだけを目当てに鑑賞するのは難しいと思いますが、逆に言えばあまりグロテスクな映画が得意ではない人や、お食事中の視聴にもってこいですね!
ロメロ監督の強いメッセージ性
※ネタバレになるような表現は控えていますが未視聴の方はご注意ください
ロメロ監督の映画はいつもただのB級ホラー作品としては終わりません。ロメロゾンビには面白さだけでなく、鋭いメッセージ性がつきもので、これが凡百のゾンビ映画とは一線を画するロメロゾンビの魅力なのです。
続くゾンビ映画の傑作である『ゾンビ』において極限状態における人間の醜さや、当時のアメリカの大量消費社会をコミカルにかつ、恐ろしく描いていますが、本作の後味の悪いラストにおいても、ロメロ監督は現代にもなお響く、強いメッセージを投げかけています。
以前放映されたNHKBSのドキュメンタリーの中で、本作は自主制作に近い映画であり、出演者の中には友人たちもいるなか、監督は周囲の反対を押し切ってまで映画の主演に当時としては珍しい黒人俳優のデュアン・ジョーンズを起用した、という証言がありました。
本作の視聴後に残るなんともいえない余韻は、間違いなく監督によって意図されたものだったのでしょう。
ゾンビ映画というジャンルの歴史を追う上でも興味深い作品ですが、1つのサスペンスホラー映画として秀逸な本作、間違いなくおすすめです!