スティーブン・キング原作のホラー映画『IT』の劇場リメイク作品である『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を観ました。
2017年の公開時にその完成度の高さから日本国内でも予想以上のヒットを見せ、その後に続く『It〇〇』や、『That』といった便乗邦題映画を大量に生み出した本作。
私も友人におととしから「『IT』を観ろ。『IT』を観ろ」と言われ続けて、今回ようやく鑑賞することができました。
続編である第2部も今年公開されるということで、そちらも楽しみですね。
『IT(2017年)』の基本情報
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(原題)”IT”:2017年 135分
監督
- アンディ・ムスキエティ
脚本
- チェイス・パーマー
- キャリー・フクナガ
- ゲイリー・ドーベルマン
出演
- ジェイデン・リーバハー
- ソフィア・リリス
- ビル・スカルスガルド ほか
『IT(2017年)』のあらすじ
1988年の夏。デリーの町では児童の連続行方不明事件が相次いでいた。
弟ジョージーが行方不明になってしまった吃音症の少年ビル、ろくでなしで口の減らないリッチー、喘息持ちで過干渉の母親によって潔癖に育てられるエディ、ユダヤ教徒の子スタンリーは、学校の負け犬集団「ルーザーズクラブ」の仲間たち。
彼らはそれぞれのトラウマや恐怖の対象の姿を伴って現れる不気味なピエロ、ペニーワイズに遭遇する。
同じく暴力的な上級生ヘンリーに目をつけられていた転校生の肥満児ベンと、屠殺業の家の黒人少年マイク、学校にも家にも居場所のない大人びた少女ベバリーもルーザーズクラブに加わり、全員が同じような恐怖体験をしていることが判明する。
彼らは連続行方不明事件の謎を追う中で、この町に古来から潜む恐ろしい存在があることを知り、それに立ち向かうことになる。
『IT(2017年)』の感想
本作は非常に美しく、文学的な味わいのある作品であると感じました。
少年たちが”it”に遭遇するとき、各々の恐怖する対象が恐ろしい現実感を伴って映像化されます。
それを見たとき、視聴者は自分たちが幼い頃に持っていた自身の豊かな想像力と、当時生き生きと立ち現れていた恐怖の感覚を思い出し、懐かしむことになります。
家の暗がりに飾ってあるなぜかわからないけど不気味に思える絵、図書館で町の史料を探っていると見つかる恐ろしい歴史、子どもにとって絶対的な存在である親や大人に押し付けられる価値観や、逃げ場の無い暴力…様々な恐怖の源が、ふとした瞬間に一気に増幅して襲いかかってくるあの感覚が、本作ではペニーワイズ=itという現実世界で襲いかかってくる悪魔として描かれるのが面白いです。
そうした恐怖や、トラウマに負け犬扱いされる少年たちが立ち向かい、ケリをつけようとする。
恐ろしいんだけど、どこかワクワクする夏の冒険を通して少年たちは成長し、恐怖を克服する。その一方で、彼らが何か幼い頃にだけ持っている感覚を失ってしまうような気になり、切ない(でも心地よい)余韻が残ります。
観ている間「文学っぽいなー」と思う描写が非常に多く、仮に原作があることを知らないで観ても、小説が元にある映画なのかなと感じるはずです。
原作小説は未読なのですが、今回のリメイクでは原作の雰囲気を損なわないようにかなり丁寧に実写化されたのではないでしょうか。
文学といえば、まるで小説の書き出しと書き終わりのような、本作の冒頭のジョージーの折り紙船と排水溝のシーンと、ラストの「ルーザーズクラブ」血の誓いをしたベバリーの手で触れられたビルの顔に血の手形がつくシーンは本当に印象的で美しい。これだけでもああ、いい映画を観たなという感覚になるものです。
ホラーを普段見ない人にも独自の魅力を持った青春冒険譚としておすすめできる(実際にそうした客層を取り込む大ヒットだった)本作ですが、ペニーワイズが現れる際のホラー描写や、大人や上級生による暴力描写はかなり容赦なく、主人公と同年代の子どもが観てしまったらトラウマになること必至です。
”it”の本質が明らかになるまでの序盤から中盤にかけての、少年たちに襲いかかる現実なのか幻想なのかわからない恐怖描写の数々は支離滅裂にも思え、正直な話あまりノれなかったのですが、ルーザーズクラブにベンとマイクが加入してからは一気に物語が動き出し本作の魅力にはまりました。
7人の少年たちもはじめは人物を把握できず、多すぎるようにも感じられますが、完璧なキャスティングと演技で知らない間に彼らに感情移入し、応援したくなってしまうのです。
そしてキャスティングと演技といえば「作品の顔」でもあるペニーワイズを、とにかく恐ろしく、さらにどこか愛らしさとクールさをあわせ持つキャラクターとして演じて見せたビル・スカルスガルド。
メイキングによると、彼はオーディションにただ1人ピエロメイクを施して参加し、特殊メイクのように見えるペニーワイズ独特の口元や、監督もCGによって表現しようとした外斜視の目を自身の意志で顔を操作することで作ることができるなど、ペニーワイズを演じるためにいるかのような恐ろしい才能を持った俳優です。
原作もの、リメイクものとしてのハードルを完全に超えた新たなペニーワイズを作り上げた時点で本作の成功は決まっていたのではないでしょうか。